静岡大学工学部ML[第33号]【特別寄稿】

静岡大学工学部 [第33号] 2021年10月 配信
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[1] 【特別寄稿】
               留学生たちの夏休み
            ~緊急事態宣言下のインターンシップ~
                             国際連携推進機構
                             特任教授 藤巻 義博
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 今年の夏休みは新型コロナ感染防止の緊急事態宣言の中、静岡大学の工学部学生19名(学部生・大学院生)を含む留学生24名の留学生が対面でのインターンシップを修了しました。全参加留学生及び受け入れ地元企業全社9社が感染、体調を崩すこともなく無事終えることが出来たのは幸運だったというよりも参加企業の協力が非常に大きかったと思います。学生、受け入れ企業は感染対策徹底の為のワクチン接種、直前のPCR検査等を行いインターンシップに臨みましたがそこまで来るのに大変な苦労がありました。感染防止対策の為に企業は4度にわたりインターンシップスケジュールを変更して、従来9月末までの夏休み中に終わらせるべき夏期インターンシップが終了したのは後期授業開始の10月を割り込んでいました。

留学生インターンシップの様子1

留学生インターンシップの様子2

留学生インターンシップの様子3
留学生インターンシップの様子


 私は国際連携推進機構に属し、留学生とグローバル教育を希望する日本人学生を対象に国際経営の授業を行っています。また一方で留学生の就職活動の支援も行っています。昨年来新型コロナ感染症が広がり、その影響を受けた企業は業績が悪化して学生の就職はかなり厳しくなりました。特に留学生の就職は更に厳しくコロナ禍とはいえ、日本企業の留学生採用は政府の意向に反して全国的にもまだまだ少なく、折角日本を選び、将来の自国と日本の懸け橋になるべく勉強しに来た留学生の半数以上が日本で就職せず帰国して行ったのです。今後の日本の少子高齢化による人口減少から経済減速を食い止める為には、留学生や高度外国人材の知見、知識によるイノベーション、生産性向上が必要ですが、同質経営体質の日本企業はどうしても留学生を受け入れるのに躊躇してしまいます。そのような環境下 応募書類やオンライン面接では中々伝えにくい留学生、特に日本語が不得手の留学生にとっては2週間のインターンシップは自分を直接企業にアピールできる就職に有効な機会です。
 しかし今夏新型コロナ感染症が急拡大して、国は静岡県にまん延防止等重点措置を宣言、更にそれでも感染拡大は収まらず遂に緊急事態宣言を発出したのでした。それに伴い全国で計画されていたインターンシップはほとんどが中止かオンラインに変わって行きました。静岡大学の感染対策レベルも3プラスに引き上げられ、課外活動はかなりの制限が掛かりました。そんな中、留学生からは「まだ就職内定をもらっていないので何とかインターンシップをやってほしい」「インターンシップをしないと卒業できないので予定通りインターンシップをして欲しい」と続々と訴えてきたのでした。この悲痛の叫びに「これは大変だ、しかし何とかしなければ」と思ったのです。

図4


 静岡県に8月31日までのまん延防止等重点措置が発出されたのは8月8日でした。その時点で多くの企業が8月中の2週間のインターンシップを計画していましたが、そのまま進めるわけには行かなくなりました。そこでインターンシップを中止するか、オンラインで実施するか、まん延防止等重点措置が終了となる8月31日以降にするかの判断を迫られました。企業はインターンシップの為に体制を整え、学生達もアルバイト等を入れないで用意をしていました。それを考えると中止にはしたくない、対面からオンラインへ変更か延期かの判断となりました。そして最終的に企業にインターンシップを9月1日以降に延期してもらいました。

合同説明会の様子1

合同説明会の様子2
合同説明会の様子


 留学生のインターンシップは就職や単位取得の目的の他に、日本企業の特殊な企業文化を学ぶことがあげられます。私は企業人時代に19年間8か国で駐在員として仕事をしてきましたが、海外から見ると日本の企業文化はかなり特殊だと思いました。逆に日本では留学生はそんな日本企業に何の予備知識、実務体験のないまま入ると、組織や仕事の仕方にかなり戸惑うことになります。これまで多くの外国人が日本企業で働くことが出来なくなり転職や帰国したりする大きな理由の一つになっています。私がインターンシップを中止することなくわざわざ企業に再調整してもらったのはそんな思いからでした。

静岡県新型コロナ感染者数推移
静岡県新型コロナ感染者数推移


 さてインターンシップの計画を変更した後 新型コロナ感染症数の状況を毎日注意深くモニタリングしていましたが、感染拡大は一向に収まるどころか更に拡大していきました。8月中旬になると、ひょっとするとこれはまん延防止等重点措置が延長になるどころか、非常事態宣言まで出るのではないかと思う様になりました。そして国はついに静岡県にも8月20日から9月12日まで緊急事態宣言を発出したのでした。日々感染拡大が増え心配していたとはいえ現実に緊急事態宣言が発出されると今度は9月1日に一旦延期をした企業に、再度9月12日以降に再調整を依頼しなければならなくなりました。9月に入ると企業の上期決算月となるので企業も一層忙しくなりインターンシップの再度の延期には企業から不満が出たり、対応不可と言われそうでした。しかしあに図らんや企業は留学生の為にインターンシップスケジュールをまたしても9月12日へ変更してくれました。留学生のことを考え、あくまでも対面でのインターンシップを実施する為に再三のスケジュール変更をしてくれた企業には感謝しかありませんでした。
 9月に入り感染拡大は少しずつ収まり始めましたが、今度は2度延期した9月12日以降も延長になるかもしれないとの心配がまた出てきました。そして心配は現実のものになりました。政府は静岡県の9月末までの緊急事態宣言の延長を発出したのです。さて本当に困りました、大ピンチです。10月からは後期授業が始まり2週間のインターンシップは出来なくなります。そこで最後の一手として考えたのが、学生全員にインターンシップ直前にPCR検査を受けさせることでした。オリンピックでも濃厚接触者が直前のPCR検査で競技参加が可能になった例を思い出したのです。何とか陰性の学生だけは対面でインターンシップをできる様に大学に認めてもらおうと考えました。ただPCR検査といっても留学生にとっては簡単ではなかったのです。まずPCR検査の予約がホームページ上全て日本語であること、更に予約にはクレジットカードでのデイポジットが必要であることが分かったのです。日本語が不得手の学生はPCR検査の予約すら出来ません。またほとんどの留学生はクレジットカードを持っていません。直接PCR検査センターに行かせて予約をする手もないわけではなかったのですが、インターンシップ直前で学生全員に対応できるわけではありません。そこでインターンシップを支援してくれる関係者と相談して総出で留学生の為に全員の検査可能な日程を調整して予約、留学生の代わりに立替払いを行い何とか全員が対面でインターンシップを始めることが出来る体制にしました。
 ところが今度は大学から、PCR検査だけでは不十分だ、ワクチン2回接種が最低条件で、それも2週間経っていない場合はPCR検査を受ける様にとの厳しい指示が来たのです。これには私はじめ関係者は参りました。折角大学の為に、留学生の為に再三のスケジュールのやりくりに協力してきた企業も大学のこの指示には困惑したことと思います。しかし大学と企業の板挟みにあいインターンシップが出来なくなることで困るのは学生です。最終的に企業は大学の指示に理解を示し4度目のスケジュール再調整をしてくれたのです。今回は根気よく対応してくれた企業には本当に頭が上がりません。
 そうして無事、一人の感染者も出すことなく対面でのインターンシップを実施することが出来ました。インターンシップ後の留学生のアンケートでは全員がインターンシップは大変役に立った、満足行ったと答えていたのです。

2021年10月インターンシップ後の留学生19人のアンケート調査から
2021年10月 インターンシップ後の留学生19人のアンケート調査から


 今夏のインターンシップが無事終了したことは一言でラッキーだったと言われればそうですが、そこには簡単に一言で済まされない、企業及び関係者の多大な協力、努力と、留学生を助けたいとの執念と意地が最終的に運を引き付けたのだと私は信じています。
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 ここまで読んで頂きありがとうございます。
 今回行ったインターンシップは、留学生の為に特別に開発した「インタラクティブ・インターンシップ」と言います。地域志向型大学として静岡大学ではこれまで留学生の地域企業への就職を促進するために就職支援等を強化してきました。しかし中々地域企業特に中小企業への就職に繋がっていませんでした。そこで地域企業54社へのアンケート調査を行い企業の留学生採用の問題点を把握しました。その結果企業は以下のことを心配して留学生の採用に躊躇するということが分かってきました。
①高い日本語能力を要求している(下記グラフ)
②社内体制が未整備で留学生採用に躊躇している
③異文化によるトラブルが心配
④採用意欲があっても留学生との出会いが少ない
⑤留学生マッチングには企業説明会とインターンシップが効果的である

日本語能力(JLPT)はどの程度のレベルが望ましいですか?静岡県内企業54社に対するアンケート調査(藤巻・沢口2019年)
日本語能力(JLPT)はどの程度のレベルが望ましいですか?
静岡県内企業54社に対するアンケート調査(藤巻・沢口2019年)


 また同時に静岡大学の留学生にもアンケート調査を行ないました。その結果、①半数の留学生が静岡県内で就職したい ②3割以上の留学生が中小企業に入社したい ③多くの留学生が地域企業の情報が少なくて入手できない、との考えがあることが判明しました。

就職するとしたらどこがいいですか?静岡大学留学生41人に対する日本の就職に関するアンケート(藤巻・沢口2019年)
就職するとしたらどこがいいですか?
静岡大学留学生41人に対する日本の就職に関するアンケート(藤巻・沢口2019年)

就職する会社の規模はどのくらいがいいですか?静岡大学留学生41人に対する日本の就職に関するアンケート(藤巻・沢口2019年)
就職する会社の規模はどのくらいがいいですか?
静岡大学留学生41人に対する日本の就職に関するアンケート(藤巻・沢口2019年)


 地方企業や中小企業は慢性的に戦力人材の不足に悩んでいます。一方で静岡大学の留学生は、静岡の企業に入社したい、大企業だけでなく中小企業に入社したいのに地域企業の情報が少ない為に就職をあきらめている、とのミスマッチが起こっていたのです。
 そこでこれらの問題点を改善するには、特にインターンシップの充実を図ることが有効ではないかと考えました。これまでインターンシップを企業任せにしていたのを、インターンシップのプログラム作成も含め大学が主導でインターンシップを実施することにより、それぞれの企業経営に合わせたプログラムを通して留学生の採用の疑似体験ができ、留学生も研究に合った高度な実務体験を通して自身の研究の深堀りが出来、また地域の中小企業の事業を深く理解することが出来る、そしてその結果として就職採用にも繋がるのではないかと考えたのです。
 これまでも大学は地域の中小企業のインターンシップ参加を促してきましたが、留学生はインターンシップ先の企業には就職を希望しなかったことが留学生への調査から判明しました。そこで次に実際にインターンシップを実施した地域企業、留学生のアンケート調査を行い、これまでのインターンシップには主に4つの問題があると認識しました。
①どう実施すればいいのかわからない留学生のインターンシップ
②日本語が不得手な留学生を英語が話せない企業スタッフが受け入れる場合の問題
③異なるマナー、価値観を持つ留学生に、日本人学生と同様の扱いをしてトラブル発生
④インターンシップの企業担当者の大きな負担
⑤インターンシップを仕方なくやる企業の低モチベーション
 そこでそれを解決する為の新たなインターンシップを設計開発したのが「インタラクティブ・インターンシップ=双方向インターンシップ」でした。
 まず①留学生のインターンシップをどう実施すればいいのかわからない企業が多い、という点についてはインターンシップを実施する仕組みとしてのプラットフォームを作ることで、初めての企業でもそのプラットフォームに乗るだけで簡単に留学生のインターンシップの実施が効果的に出来る様にしました。浜松市、経済同友会、大学と連携して進める仕組みを作ったのです。行政、経済界と連携することにより、一過性のリスクを排除して持続的で永続性のある事業モデルを構築しました。

図12


 ②次に言語の問題を解決するために留学生の研究や専門と企業の経営課題とがマッチングするプログラムを作成することを行いました。この場合共通言語は専門用語になるので、日本語・英語が出来なくてもコミュニケーションがある程度できる様になります。企業はグローバル化やデジタル化等の経営課題を留学生と取り組むことにより経営変革の切掛けにもなります。
もう一つの効果として、2週間のインターンシップで本来の学業に支障が出てしまうと心配になりますが、学生の専門性や研究にマッチしたプログラムをすることにより、高度な実務体験が出来、ひいてはそれがさらなる大学での研究にも好影響を与えると思いました。
次の図では留学生と企業へのアンケート調査を示していますが、留学生が自分の専攻や研究を活かせて満足したインターンシップが出来ていると、企業も満足するとの結果になっています。

図13


 ③インターンシップ初日に各企業のインターンシップ担当スタッフ20名くらいに集まってもらい異文化理解研修を実施します。まず留学生の優秀さや日本にとって重要であること、また留学生のインターンシップで気を付ける点等を約40分間私の方から話します。次に異文化理解ゲームをしてもらいます。トランプゲームですが、このゲームをすることにより異文化とはどういうものなのか、留学生や外国人やマイノリティの気持ちを体験できるものになっています。この研修の後にインターンシップをするとうまく行くとの調査結果も出ています。

異文化理解トランプゲームを行う企業スタッフ
異文化理解トランプゲームを行う企業スタッフ

異文化理解レクチャーの様子
異文化理解レクチャーの様子


 ④次に本業が忙しい中インターンシップをすると企業担当者の負担が大きいので躊躇するという点ですが、その解決の一つにインターンシップ・アドバイザーを配置しました。インターンシップ・アドバイザーは企業と留学生のブリッジの役割を果たします。各企業に1名付いて、企業のインターンシップを進めるうえでの段取りや留学生への連絡、留学生の不安や心配事、言葉の問題等解決します。このアドバイザーは企業経験があり、留学生支援に関わっている人にお願いしています。毎回50人程度の応募あり、その中から厳選して数名の方に回ごとにお願いしています。実は今回インターンシップ直前のPCR検査等の留学生への連絡、手配でもインターンシップ・アドバイザーの活躍が大きかったのです。
⑤そして企業のモチベーションをあげる為に参加費制度を導入しました。学生の為にインターンシップをするのに企業が参加費を払う、と疑問に思われるかもしれませんが、この費用は実は先ほど④のインターンシップ・アドバイザーの給与と採用母体の公益財団法人浜松国際協力協会(HICE)の事務管理経費に当てられます。結局この参加費は企業の受益として帰ってくるのです。この参加費用を払うことで企業もインターンシップに更に真剣に取り組むことになりました。

図16

図17


 これらの新しい仕組みと仕掛けにより、結果として昨2021年春期のインターンシップでは参加企業の8割が留学生を採用、参加留学生の7割が内定を得る結果に繋がりました。

図18


 今後も多くの地域企業に参加をしてもらい留学生の良さ、優秀さをこのインタラクティブ・インターンシップを通してわかって頂き、留学生の地域企業への就職が進み、それにより企業と地域の活性化に繋がればと思います。
次回2022年2月~3月の春休みには5回目のインタラクティブ・インターンシップが始まります。現在参加企業の募集中です。企業の皆様はぜひご参加を検討頂けます様宜しくお願い致します。ご検討頂く、ご参加して頂く企業には下記にご連絡頂けますとより詳しくご説明をさせて頂きます。

                       ◎お問い合わせ:
                        静岡大学 国際連携推進機構 藤巻 義博
                       fujimaki.yoshihiro[@]shizuoka.ac.jp

図19

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